シーン3、密会はスリルがあったが、ベッドでのAは・・・
B子はすっかりAに夢中になってしまっていた。勤務時間中に制服のうちポケ
ットに忍ばせている携帯にそっと手をやる。1回鳴らせば30分後、2回鳴らせ
ば1時間後、3回鳴らせば1時間半後−その頃に郵便局や銀行に向かう通りをゆ
っくりと歩いている、という合図なのだ。同じく内ポケットに忍ばせたAの携帯
にそのメッセージが届くという仕掛けになっているのだ。Aの方は音の出ないバ
イブで着信する設定にしてあるので、営業活動中でも困ることは無い。また、1
日に一度は同じやり方でAから携帯がかかってバイブが鳴れば、「30分後にい
つもの通り沿いに車を走らせてくる」という合図なのである。B子が郵便局や銀
行にゆく所用を一度に済ませてしまわないように1日に3回は出るように用事を
分散していても、うまくタイミングがあってAがB子が路上を歩いているところ
を見つけて車を脇につけて声をかけてくれる、ということが実現するのは1日に
一度あるかないかなのだが。
最初は「勤務時間中なのに・・・」という後ろめたさがあったが、最近では、
主任ににらまれない範囲の時間で市内をAと何周できるかがすっかり楽しみにな
っていた。
Aの運転は実に荒々しい。前の車がちょっと発進をもたもたしていると「何ト
ロトロしてるんだよっ」などと腹を立てたようにつぶやいてすぐにクラクション
を鳴らす。怒りの蓄積前の車を追い越すのが大好きで追い越し禁止のところでい
きなりハンドルを切って車と車の間の狭い間に割り込んで行く。
Aの運転ぶりは大胆不敵極まりない。危ない運転を楽しんでいるかのようだ。
大胆最初は怖かったが、B子はしだいにそれをスリルを味わうことを楽しいと思
うようになっていた。
B子は元来は安全確実志向、規則といえば何でもその通りに守らなければなら
ないもの、と思ってしまう方であったから、Aの冒険的な行動パターンはひどく
刺激的であった。「ああ、これが『男』というものなのね」とB子はすっかり
『ワルの魅力』の虜になってしまっている。Aの存在によって自分が変わってい
くのがはっきり感じるとぞくぞくしてくる。
Aは、勇敢な男らしい男―B子はもうすっかりに夢中になってしまっていた。
ちょっとぎくしゃくしかかっていたD男とのつきあいはとっくのとうに自然消滅。