矢幡洋の精神医学と心理学

学術的なことをかみ砕いたり、日常生活にお役に立てる知識まで幅広く扱います。これまで出した本の初期稿(出版されたものより情報量は多いです)や未発表原稿を連載しますので、何かしら新しい記事があります。本ブログは他にあり、読み切り本気記事はタイトル・サブタイトルが「|」の形で更新情報をお伝えします

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「いい子」に始まる摂食障害 | 僕の妻の場合「食後の眠気を抑えよう」がきっかけだった

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 (1)摂食障害の遺伝的要因と心理的要因

 


 摂食障害の遺伝的要因としては,不安障害やうつ病,強迫性障害などの精神疾患が考えられます。


 心理的要因として重大なのは「愛着形成」の問題です。
 摂食障害の子供は親との絆が健全に発達しなかった子供達がなります。
 愛着形成には,親が子供との関係を築きにくい場合もあれば,子供が親に対して関係を築きにくい気質も生得的に持っている場合もあります。そして親も子もどちらも関係を築きにくい気質をもっている場合もあります。

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 (特定の大人と絆がしっかりして、他の大人に対して人見知りなどをするようになったら、その特定の大人との間に愛着が形成されたと考えます)


 いずれにしても親子の絆が健全に育たないのです。
 愛着の障害は子供のその後の人生に大きな影響を及ぼしていきます。

 

 (2)摂食障害の性格傾向-周りの期待に過剰に応える

 

 摂食障害の人達は「親との甘い絆」を形成出来なかった人達です。だからひとことでいえば「甘えない子」です。相互に依存するということを生まれた時から知らないで育った子供です。
 極度にコントロールしたがる、自己完結的,強迫的傾向,完全主義,禁欲主義,白か黒か(オールオアナッシング)の思考を持っています。(以下、引用は僕の著書から妻の10代後半の摂食障害体験を書いた部分です。自著の宣伝もありますが、クライアントさんのことはうかつに例に出すわけにはゆかないので、身内のものを-)

私が勉強に精を出し始めた小学校五年生の時は、いい成績を取って親たちを喜ばせ、家を一時でも平和にするという目的があった。

矢幡洋・著『病み上がりの夜空に』 【第3回】妻の章―亜空間(その3)---私が、治療者になる?精神の病だらけの人間に、心理療法などできるだろうか | 立ち読み電子図書館 | 現代ビジネス [講談社]

 

 


 自分の内的感覚に疎く,極端に外的基準に自分を合わせてそれがせいこうとなる生き方をします。だから周りからみたら「よい子」です。
 しかし,自尊心が病的に低く,いくら成功を収めてもまるで達成感がない,いつまでも「もっと,もっと」と駆り立てている。
 たとえて言えば,「95点とっても100点でなければ0点と同じ」

 

私は、各教科への力配分が苦手で、全教科を勉強しようとした。だが部活が終わって一目散に家に帰っても、勉強を始められるのは、夜10時になってからだった。あれだけ運動をやっていれば、いつも空腹を感じる。だが、食欲のままに食べれば、眠気がどっと襲ってくる。下手をすれば翌日の授業にすら集中できない。私は食事量を神経質にコントロールするようになった。「お昼ご飯をがまんして午後の勉強に集中できた」という成功感は私のささやかな喜びだった。

矢幡洋・著『病み上がりの夜空に』 【第3回】妻の章―亜空間(その3)---私が、治療者になる?精神の病だらけの人間に、心理療法などできるだろうか | 立ち読み電子図書館 | 現代ビジネス [講談社]

 

 

 どうですか。こんなお子さん。幸せだと思いますか?
 こういう子供は優等生として,親のプライドを満たしてくれることでしょう。
 しかし,本人は全然満足しないで頑張って,もっともっとと目標をつり上げていく。いつもこころは飢餓状態。
 もし,こんなお子さんに周囲が期待をして「頑張れ」と拍車をかけたら,ただでさえ低い自己評価しかないのに,「まだ努力が足りない」と感じてしまうでしょう。
 この期待は,学業だけでなくスポーツや習い事にも及びます。とくに,運動障害と摂食障害とはセットになることが多く,男性にも拡大しています。


 
(3)摂食障害の発生機序~こうして摂食障害は始まる

 

 摂食障害の人はずっとよい子できた甘え知らずの子供です。


 しかし,発症前に,今までの生き方では通用しなくなるというストレスフルな状況に置かれます。例えば,中学校まで一番だったが,高校に進学してから勉強が大変になったとか,部活仲間やクラスメイトとの関係が難しくなった等何かしら困難を抱える状況が起こります。その時,うつや不安,強迫傾向など摂食障害の前に何らかの精神的危機があるはずです。


 そのようなとき,食事をとらなくなったり,過度な運動をしたりして,体重が減るようなことが,成功した感じ,自分をコントロールできた勝利感といった感情と結びついた時,摂食障害は始まります。もはや飢えと充足の機能より,コントロールする事の方が勝ってしまうのです。

 

冬の夜、誰にも見られない時間になって、空腹のままジョギングをする。足元がふらふらするのを感じる・・・・・・もう少し・・・・・・もう少し・・・・・・心が鈍い喜びに満たされる。私はお決まりのコースをいつもよりももう一周回ることができた。

矢幡洋・著『病み上がりの夜空に』 【第3回】妻の章―亜空間(その3)---私が、治療者になる?精神の病だらけの人間に、心理療法などできるだろうか | 立ち読み電子図書館 | 現代ビジネス [講談社]

 

 


 その後は体重やカロリーといった数との戦いになります。食物への過剰な囚われ(脂肪や炭水化物を恐れる),運動のし過ぎがセットとなり慢性的栄養失調状態に陥ります。


 身体感覚は麻痺状態となり,歪曲した身体イメージにしばられます。端からみたら病的痩せにしか見えないのに,「もっと痩せよう」とします。ろくに食べず動いてばかりいても,空腹感や疲労感を感じなくなるでしょう。

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(4)過食症に移行する場合も多い


 こうして神経性拒食症は始まります。
 そしてその30~50%は神経性過食症へと移行します。飢餓に対する反動としてどか食いが始まります。

それは、暗くて大きな淵に身を投げる感覚に近かった。私は床に置いたジャーに腕を突っ込み、両手に白飯を荒々しく盛ると顔面をつけて口いっぱいにほおばった。咀嚼していないので、胸のあたりにつかえて熱く、苦しい。それでも胃に流し込まれてゆく感覚が生々しく感じられると、自分の中の怪物は喜び荒々しく咆哮した。

ほおばる。凶暴に、噛む、呑み込む。私の指先から白飯がぼろぼろこぼれた。顔にも米粒がくっつく。犬め、とあざける声がする。それでも、奔流のような勢いは止められない。暴力的な運動があるだけだ。めちゃめちゃにしてしまえ、ここ何日間の自分の努力を残らずぶち壊しにしてやる。壊せ、壊せ、自分を壊せ。

私は、凶暴に食べながら泣いていた。涙が入り混じったしょっぱい米粒が胃にどんどん堆積してゆく。胃がぱんぱんに膨らんでいる。さあ、もうそろそろだ。その瞬間は、祝祭のようにやってくる。

米粒が胃の底からうずたかくのど元まで来ている感じだ。ほんの一瞬だが、歓喜がよぎった・・・・・・ぶっ壊してやる!

とうとうその瞬間がやってきた。体全体を揺さぶる衝撃と共に、今まで食べたすべてのものが一斉に逆流する。それまでの世界がひっくり返る感覚。私は自分の口から逆噴射の激しさで吐瀉物がはき出されるのを見た。

私は、炊飯ジャーの中の吐瀉物と残っていた白飯がぐちゃぐちゃに混じり合ったのを見た。口の横から吐瀉物がよだれのように顔にへばりついているのを感じた。私は自分がけだものよりみじめな姿をさらしているのを想像した。ざまあみろ、私。さっきまで、克服した気持ちになって走っていた自分をめちゃめゃちにしてやったぞ。死ね。死んじまえ。

矢幡洋・著『病み上がりの夜空に』 【第3回】妻の章―亜空間(その3)---私が、治療者になる?精神の病だらけの人間に、心理療法などできるだろうか | 立ち読み電子図書館 | 現代ビジネス [講談社]

 

 


 大抵の人は痩せにこだわりがありますから,吐いたり,下剤や利尿剤を使ったりして埋め合わせをしようとします。あるいは絶食すると言う方法も取られます。